Cold Medicine

「…ばーか……」

　枕元で、刹那がうめくように呟いた。

「……馬鹿……」

　ぴしゃり、とよく冷えた濡れタオルが、額に叩きつけるように押さえつけられる。

「……ばかばか言うな。熱が出るほどの風邪ひいたのなんてウン十年ぶりなんだからよ」

　吐き出す息が熱を帯びている。ノドが焼かれるようで、喋るのも億劫だった。

「そのあげく、風邪ひいていることにも気付かないで出撃してぶっ倒れてりゃ世話無いっての。そういうのを馬鹿って言うんだ。……俺がどんなに……」

　言いかけて、ふいに刹那が言葉を途切れさせた。わずかに頬が赤い。
　飲み込んだ言葉は明白で、ガデスはにぃ、と笑ってベッドの上から刹那を見上げた。

「心配したか？」

　途端、びし、と顔面に平手がたたき込まれた。

「……ふざけるな！　なんで俺がキサマの心配なんかしなければならないんだ！　……あんな…あんなことで……」

　きつく握られた手が小刻みに震えていた。

　目の前で倒れたのだ。敵を前にし、刹那の目の前で唐突に。
　それきり意識を失ったのか動かなくなったガデスの姿に刹那はパニックを起こした。
　能力を暴走させ、敵も、敵の本拠地も、周囲の町並もすべて破壊してしまった。
　援軍が来るまでの間、どうすればいいのかわからず、刹那は自らがこしらえたクレーターの中心で、動かないガデスの身体を抱えて泣きじゃくっていたのだ。
　そんな自分が恥ずかしくて悔しくて、もしあのままガデスが目を覚まさなかったらを考えると心臓のあたりが締め付けられるような気がして、苦しかった。
　じわりと浮いた涙をシャツの袖で乱暴に拭う。と、その頬にガデスが手を伸ばしてきた。
　熱のためかいつもより熱いその指は、安心させるように刹那の頬をやさしく撫で、髪を梳いて首の後ろに回される。あ、と思ったときには強い力に引き寄せられガデスの胸に抱きしめられていた。
　まるで抱えた猫の背を撫でるようなガデスの手つきに、刹那は動けなくなる。

「大丈夫だ――」

　耳をつけたガデスの胸は、奥の方からひゅうひゅうと苦しそうな呼気音が聞こえた。

「ただの風邪だ。ウォンが言うには、俺の体力なら二、三日寝てればすぐに完治するってよ。そんなに心配するほどのこっちゃねえ。――大丈夫だ」

　髪を撫でる手も、刹那の頭を抱える腕も胸もまだ熱く、熱が高いことを示していた。
　それなのに。
　もう手は震えなかった。

　刹那はそっと身を起こし、初めて自分からガデスにキスをした。

「……風邪、感染るぞ」

　口唇を重ねたまま、ガデスがどこか困ったように呟く。

「…大丈夫だ。そういう物にたいする抗体が作られてるってウォンが……」

　抱きしめられながら見つめあう姿勢でそこまで言って、黙り込んだ。
　これじゃあまるで誘ってるみたいじゃないか。
　次の言葉を探して視線が宙をさまよう。
　その言葉を見つけるよりも早くガデスは刹那の身体を抱き上げ、ベッドの上に組み敷いていた。

「ガ、ガデ、ス…？」

　なにかを言いかけた口唇が強引に塞がれた。
　熱い舌に口腔内をかき回され息が上がる。
　シャツがたくし上げられ、露になった胸元を痕がつくほど強く吸われて声が出そうになった。

「ダメ、だっ…ガデス！　おまえ、まだ熱あんだから……」
「おまえが看病してくれたから治った」

　ガデスは動きを止めようとしない。

「おまえほんとに病人か！　さっきまでフラフラだったくせに！」
「だから治ったって」
「風邪悪化しても知らなっ……あっ！！」

　中心を強く扱かれ声が擦れた。
　一度出てしまえばとどまることがなく、堪えようとしても堪えきれない声がガデスの導くままに刹那の口唇からあふれてくる。

「ふぁ、あ…く……、ヤ…だ、め……」

　先走りに濡れる刹那自身に舌を絡めると、びくびくと白い足が宙を掻く。
　強く吸うとそれだけで刹那は達ってしまった。
　そういえばここ二、三ヶ月の間、任務だなんだで忙しくてほとんど夜一緒にいることができなかったのだ。

「たまってたのか？」

　にぃ、と笑ってそう言うと即座に拳が飛んでくる。
　それを受け止め、手の甲に優しくキスをした。

「すぐに最高の気分にしてやるよ」

　そう言う指が刹那の最奥を探り当て、ぬるり、と入り込む。

「あぅっ」

　刹那の身体が跳ねた。
　久しぶりの感覚に、身体が言うことを聞かない。抑えようと思っても自分の意思に反して奥襞がうねりガデスの指にからみつく。
　自分の秘所が発した濡れた音に、頭に血が上った。

「あ、あ、…ぅ……ん……」

　ガデスは苦しそうに眉をひそめて快感に耐える刹那の姿に、うれしそうに口角をつり上げ指を抜いた。細いふくらはぎにキスをし、その足を肩まで抱え上げる。

「ガデ…ス……」

　物欲しげに潤んだ紫暗の瞳。その眼が、全身が、ガデスが欲しいと訴えていた。そのことが、ガデスの背筋を悦びに打ち震えさせる。

「刹那……」
「…ん、んん……！」

　慣れたとはいえ、多少の苦痛はあるのだろう。ガデスは、顔をしかめ挿入に耐える刹那の目元に浮いた涙を舌で拭い、口唇を重ねる。
　細い腕がガデスの首に回される。
　ガデスは刹那の浮いた腰がつらくならないように抱き上げ、差し出された舌を己のそれでからめ取った。
　最初はゆっくりと。徐々に大きくなる抽挿に刹那の身体がとろけていく。

「あ、あっ、んっ！　や、ガデス……ガデ、スぅ…！」

　背中に爪を立てられることさえ愛おしいと思う。
　キスを繰り返しながら、ガデスは確実に刹那を追い上げていく。

「あ、あっ、ぁあっ！」

　刹那が達く瞬間きつく締め上げられ、ガデスもまた刹那の中に放っていた。
　荒い呼吸に胸を上下させている刹那から己の半身を抜き出す。どろり、とガデスが放ったものが糸を引いて刹那の中からあふれた。

「ガデ……ス……」

　差し出された腕を首にからませキスをする。
　そのまま刹那の身体を抱き上げガデスは身体を起こした。
　膝の上に刹那を座らせ、啄むようなキスを繰り返す。

「……ガデス…もっとして……、な…？」

　潤んだ瞳がガデスを捕らえて離さない。
　刹那の尻の下で、たった今精を放ったばかりのものが、ぐぐっ、と持ち上がるのを、ガデスは感じた。

「いくらでも、してやるよ。……お前が満足するまでな…」

　うれしそうに照れくさそうに微笑むの刹那に、ガデスは満足そうに笑い返した。

「本当に治ってんだもんなぁ……」

　ガデスの額に額を当て熱を計っていた刹那が、呆れたように声を漏らす。

「だから大丈夫だって言ったろ」
「そんなこと言ったって、４０度近くあったんだぞ？　それなのに……」

　ガデスは、額をあわせたまま信じられないと言いたげな刹那の口唇に触れるだけのキスをし、そのままベッドに押し倒す。

「俺の身体は特別製なんだよ。貧弱な誰かさんと違ってな」
「誰が貧弱っ！」

　怒鳴りかけた口唇を強引に奪い、舌を絡める。
　すっかり平熱に戻った指に、まだ濡れている奥を探られ刹那が素直に声を上げる。

「…ったく、お前って奴は……ん、んっ」

　慣らされているおかげですんなりとガデスを受け入れながら、刹那はぼやく。

「……どれだけ人を心配させりゃ気が済むんだよ……」

　ガデスの頭を軽く叩き抱きしめた。

　文句を言いながらも、幸せそうに――