love me, I love you.

「うわ……」

　脱衣所で服を脱ぎ捨て、刹那は赤面した。
　洗面台の鏡に映る自分の身体に、点々と残る薄紅色の痕。

「あのバカ…めちゃくちゃつけやがって……」

　いつ突発で検査が入るかわからないから痕は付けるな、と口を酸っぱくして言っているにも関わらず、ガデスはこれでもかというくらい情痕を残す。刹那のすべてが自分のものだと言いたげに。

「こんなとこまで……」

　手首についた痕を見つけ呆れた溜息が洩れる。
　そのまま刹那の動きが止まった。
　思い出してしまう。
　ここに触れたガデスの口唇の感触を。
　食い入るように紅く痕の残った手首を見つめている。
　どれほどの時間そうしていたのか。
　止まっていた空間が動き出した。
　どこか恍惚ともとれる表情でそろそろと手首を顔に近づけていく。
　口唇が紅い刻印に触れた途端、感情が吹き上がる。
　空いた手が股間に下り、すでに硬く勃ちあがり始めた中心に触れる。

「あ……」

　吐息のような声が漏れる。
　掌の中のそれが一気に質量を増した。

「……ふ…ん……」

　溢れ出した熱はとどまることを知らない。
　ガデスのつけた痕に舌を這わせ、空いた手で中心を強く扱き上げる。ガデスの手のひらを、舌の感触を思い出しながら。

「ぁ……フ…ん……」

　足元がふらつく。背を壁に預け、そのままずるずると崩れ落ちていく。

「ガ…デス……」

　身体の中心が熱い。でも足りない。
　昨夜あんなに激しく抱かれたのに。
　抱いて欲しい。ガデスが欲しい。
　唾液でぬれた指で胸をまさぐり、肌を伝ってさらに奥へ。

「んっ……！」

　先走りを絡めた指がつぷ、と蕾にもぐりこむ。

「ガ、デス……」

　今自分を犯しているのはガデスの指で手のひらで舌で。
　その想像がさらに刹那を高みへと追い詰めていく。
　息が荒くなる。
　鼓動が痛いほどだ。
　奥を犯す指は二本に増え、蕾を押し広げるようにせわしなく動いている。

「ん、ん……あ……ハ…」

　――刹那……――
　耳元で囁くガデスの声が聞こえた気すらした。
　――イきたきゃイっていいんだぜ――
　濡れた音。
　三本目の指が抽挿に加わる。
　少し乱暴に、それでいて気遣うように動く指。ガデスがやるように。

「ガデス……ガデス…」

　いつからだろう。
　こんなにも彼の人を恋しく思うようになったのは。
　最初は嫌いだった。いや。その力強さがねたましく、うらやましかった。
　幾度となく仕事の上でコンビを組むようになって、いつの頃からかガデスといっしょにいると安心している自分に気がついた。
　他人なんか信じていなかったのに、背中を守る存在の暖かさに涙が出そうになった。
　自分の気持ちは伝えていない。言えばこの関係が終わってしまうような気がして。
　身体だけの繋がりでもいい。
　ガデスと、ともにいたい。ともに生きていきたい。
　望みはそれだけだから――

「――あ……――」

　快感の残滓に身を震わせ、刹那は見るものがいないことが惜しまれる恍惚の表情を浮かべ、果てた。
　ずるり、と指を引き抜き、呆けた眼で手をぬらす精を見つめる。いや、うっすら涙すら浮かべたその眼は何も映していない。

　――違う……――
　そんなものが望みなんじゃない。
　それだけが望みなわけじゃない。
　俺の本当の望みは……――

「……ガデス……」

　愛しい名を呟く。
　叶わない願いに、涙が頬を伝い落ちた。

　――俺の…本当の願いは……――