サクラ

「うわ……」

　眼下に広がる満開の桜の木々に、腕の中で刹那が感嘆の声を上げた。
　夜闇に白々と浮かび上がる桜は、やや強めの風に薄桃色の花びらを舞い上げている。

「す…っげぇ……」

　興奮に頬を紅く染めている刹那の横顔をかわいいと思いながら、ガデスはそろそろと高度を落としていった。
　花の中につっこむ形で降下し、地面ではなく枝の一つに着地し腰を下ろす。
　周囲は一面の桜、桜、桜。
　風にあおられて、まるで世界そのものが波打っているようにすら見える。
　刹那は思わず魅入っていた。ただ単に「綺麗」という言葉だけでは表せられないなにかがあるように思え、背筋を冷たい物が走る。それでいて目をそらすことが出来ない。
　――怖い……？

「刹那？」

　ふいに抱きしめられ、名を呼ばれて刹那は肩を震わせた。

「どうした？」

　ガデスの低い声が耳をくすぐる。
　腰を抱きしめる腕が暖かい。

「あ……いや、綺麗だな…って……」
「来てよかったか」
「……あぁ」

　刹那の応えに、うれしそうににっと笑ったガデスの笑みと自分を抱きしめる腕の暖かさにふわり、と刹那の肩から力が抜けた。
　さっき感じた言い様のない恐怖のような感じはもうない。
　ただ純粋に美しい桜の花が辺り一面に広がっていた。
　――なんだったんだ…今の……――
　と、呆けた顔で桜を見る刹那を抱きしめる腕に力がこもった。

「ガデス…？」

　柔らかな髪に鼻を埋めるようにして首筋に口唇を這わせてくるガデスに刹那は身をよじった。

「お前な……それしか考えられないのか！　花を見てろ、花を!!」
「花よりお前を見てる方がいい」

　きっぱり言い放たれ、刹那の頬に朱が指す。
　ガデスは刹那の身体を反転させ、自分と向き合う形に座らせると、啄むようにその口唇にキスをした。

「お前が喜んだのなら、それでいい」
「……お前な……」

　言葉を失くし俯いてしまった刹那の額に口吻け、顔を持ち上げて口唇を重ねる。

「…ん……」

　刹那の言葉ごと舌を絡め、きつく吸い上げる。
　手の平が上着の裾を割って、素肌の脇腹に触れた。

「わっ、な、なにすんだよ！」

　ガデスは慌てて身を離そうとした刹那の腰を強く抱き寄せた。顎から喉元に舌を這わせ、鎖骨の上を軽く噛む。

「まぁ、見てるだけじゃ満足できないのが男のサガってもんなんだがな」
「ふ、ざけるな……、こんなところで…」
「誰も見てねえよ、こんなとこ」

　実際、閉園時間を過ぎた公園内に人影はなく、万が一誰かがいたとしてもガデスたち同様忍び込んだ同じ目的のカップルぐらいだろう。たとえ見とがめられたとしても、責められるいわれはない。

「ぅ、ん…は……」

　夜気に熱い吐息が混ざる。
　ガデスに触れられたところが熱い。
　どこで誰が見てるかわからないという緊張が、逆に気持ちを高ぶらせてしまう。
　口唇を噛むようにキスされ、腰が震えた。
　胸をまさぐっていた手の平が、腹を撫で、ベルトをほどいてズボンの中に潜り込んできた。

「あっ……ダメ、だ……」

　下着越しに柔く握られて背筋が跳ねる。言葉で言ってみても抗う力はなかった。
　ガデスの手の平の下で自分自身が硬く勃ちあがり始めているのを刹那は感じていた。
　ガデスの首に腕を回しきつく抱きしめると、耳元で小さくガデスが笑った。腰を支えていたもう片方の手がベルトの隙間から忍び込み、奥を探り出した。

「あ、ぁ……んん…」

　上がりそうになった声を咄嗟にかみ殺す。
　きつく口唇を噛んで、ガデスの方に顔を埋めた。そうでもしていないと、はしたない言葉が口をついて出てきてしまいそうだった。
　早くイれて。
　ガデスが欲しいよ。
　ムチャクチャにしてもいいから――
　濡らされてもいない指の無理な挿入がもたらす痛みすら、快感となって背筋を駆け上がってくる。
　――こんな……こんなところで……――

「あ！」

　腰が浮いた瞬間下着ごとズボンをひき下ろされた。火照った肌に夜気が冷たい。
　軽いキス。
　それだけで目の前がくらくらした。

「あ、ガで…す……」

　グイ、と持ち上げられ、すでに硬くそそり立っているガデスのそれが押し当てられた。ぐず…と押し入ってくる逞しい物に、自分が歓喜しているのがわかる。待ちわびたように飲み込んでしまう。

「あ、…ぅ……」

　それでも声だけは上げないように、と歯をくいしばる刹那に、ガデスは優しい笑みを向けた。

「…動くぞ……」
「あ、やっ！」

　膝の裏に腕を入れられ、ガデスが抜けてしまいそうなほど持ち上げられ、また落とされる。
　

「あっ…うっ、うっ……」

　飲み込んだ嬌声が胸に詰まる。
　刹那はガデスの首にしがみつき、噛み付くようにキスを重ねた。

　みしみしと桜の幹が悲鳴をあげている。
　大量の花びらが目の前を霞ませる。白く、白く……――