Photograph
　

　
　
こそこそ、ひそひそ。秘密の会話が交わされる。
　廊下の影で、サロンの片隅で、一人の私室に数名が集まって。
　こそこそぼそぼそ。
　決して彼らに悟られぬよう。
　ひそひそこそこそ。

「おい、新しいの見たか？」
「みたみた。つーか、即買いだろ」
「やっぱり？　どーしよ、オレ、もう金ねぇよ」

　にやけた彼らがそれぞれ手に持っているのは写真の束だった。
　むき出しだったりファイルに納めてあったりそれぞれではあるが、写っている人物は皆一様に同じだ。

「でもオシいよなぁー。なんでこの人が男なんだろ」

　金糸の髪、菫色の瞳、抜けるような白い肌、微笑を浮かべた唇は紅く並々ならない色気を醸し出している。女性と見まごうばかりとは言わないが、美しいと形容されるに充分な男がそこにいた。
　ただし、訓練後の汗に濡れた胸元を全開にしていたり、着替えてる途中の背中だったり、シャワーシーンだったり、寝顔だったり。明らかに盗撮とわかる姿ばかりではあったが。

「この際、男でもいいからお相手願いてぇー！！」

　写真の束に突っ伏した仲間の一人にげらげらと周りが笑う。かくいう彼らも人のことは言えない願いを胸に秘め。

「この人、ガデスさんとデキてるってほんとかなぁ？」

　ふいに、ぼそりと呟かれた言葉に他の全員がぎょっと目をむいた。

「なに？　そんな話があんのか？」
「い、いや。オレも実際見たとかってわけじゃないけどさ。あの二人よく一緒にいるし」
「そりゃ……同じ部隊にいるんだし」
「いや、まあそうなんだけどさ。……一部でそう言う噂があるってだけの話だから」
「うっわー、マジかよ。あの人相手じゃ手が出せないじゃん」
「なに、お前手ぇだすつもりだったのか？」
「う、あ、や……そりゃ、まぁ、なんだ」
「でもよー、デキてるってことは……その、ＯＫなわけだろ？　男だって……」
「……なに？　マジでお願いしてみるつもりか？」
「でも。出来るんだったら……なぁ？」

　ごっくん、と誰かのノドが大きく鳴った。
　顔が赤い、動悸が早くなる。
　今まで写真を見てることしかできなかった相手が、もしかしてもしかしてもしかしたら――？

「おもしろそうな話してるなぁ」
　唐突に明かりが陰った。いや、誰かが立っている？
　いっせいに顔を上げた彼らが見たものは、サタンもかくやといわんばかりの凄惨な笑み。
「オレも混ぜろや」

　手元に残った写真を見やり、ガデスは一瞬考えてそれらをポケットにしまい込んだ。
　捨てちまおうとも思ったが、それをするにはもったいない。
　いつでも生で見ることが出来るものばかりだが、こういった形になっているというのも新鮮でいい。

「ガデス！！」

　声をかけられ顔を上げた。
　恋人が、少し怒ったような顔で息せき切って駆けてくる姿が見える。

「こんなとこにいたのか。さんざん探させやがって……！　一般兵舎なんかでなにやってんだよ、お前」
「いや、別に。そういうお前こそ、どうしたんだ？」
「少佐が、出動前に打ち合わせするって。昨日言ってただろ？」
「なんだよ、俺に会いに来たんじゃねえの？」
「ば、バカ言ってんな！　ほら、行くぞ！」
「へいへい」

　ガデスは、真っ赤な顔でどかどか歩き出した刹那の後ろに軽い足取りでついていく。
　とりあえず、刹那の部屋の隠しカメラは全部壊しておかねえとな、とか考えながら。
　刹那に教えるつもりは毛頭ない。
　自分の盗撮写真が高値で出回っているなど知れば、怒りにまかせて基地そのものを破壊しかねない。
　そんなことになったら、こうやってガデスが写真を手に入れる機会すらなくなってしまいそうだし。
　知らぬは本人ばかりなり。
　それでいいのだ。

　かくいうガデスも、自分の写真が一部で出回っていることに気付いていたりしないのだが。

　世の中には、知らない方がいいこともある。